レジデンシー・東京

家庭医になった先に 
~CFMDレジデンシー修了後に歩んだ道~

地域に根ざし、世界を俯瞰する家庭医として

CFMD東京 一期生・渡邉 隆将 先生インタビュー

■ 略歴

2004年 慶應義塾大学医学部 卒業
2006年 王子生協病院初期研修 修了
2009年 CFMD 家庭医療学レジデンシー・東京 修了
2009年 CFMDリサーチフェローシップ 開始
2010年 北足立生協診療所 所長(現職)、兼、指導医
2017年 東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部 博士(医学) 取得
2019年 第10回日野原賞受賞
(現任) CFMD 家庭医療学レジデンシー・東京 副センター長
(現任) 日本医療福祉生活協同組合連合会 家庭医療学開発センター PBRN運営委員長

2009年、家庭医療学会主導の家庭医療専門研修プログラム第1期生としてCFMDを卒業し、現在は東京都足立区の北足立生協診療所所長を務める渡邉先生。診療所長、指導医、プラクティス・ベースド・リサーチ・ネットワーク(PBRN)の責任者として、臨床・教育・研究の三本柱を実践し続けてきた。日本のプライマリ・ケア研究を牽引する一人である先生に、家庭医療との出会いから、診療所で研究を続けるための条件、これからジェネラリストを目指す若手へのメッセージまで、じっくりとお話を伺った。

家庭医療との出会い

僕自身が医者になることを目指したとき、「地域の中で働いていて、困ったときに相談に乗ってもらえるような町医者になりたい」というイメージを持っていたんですね。だからなんとなくデフォルトで考えていたイメージは、一番家庭医療に近かったと言ってもいいかなと思っています。
ただ、実際に大学に進んでみると、その当時は総合診療科というものもなかったので、自分が思い描いていた医師像というのは基本的にどこにもなくて。それに少し近いものを見ようと、一時は子供と家族全体を見られる小児科に関心を持っていた時期もありました。
そんなときに、どこかで「家庭医」という単語を耳にすることがあって。「ああ、僕がしたかったのはこの家庭医療だったんだ」と、自分が描いていたイメージに名前が与えられた、という感じでした。確か医学部の5年生のときだったと思います。

CFMD一期生として ── 初期研修からの流れ

僕は2004年に慶應義塾大学を卒業して、王子生協病院の初期研修プログラムで2年間の初期研修を行いました。当時、日本国内では、藤沼先生がいる王子生協病院(東京)、岡田先生がいる亀田総合病院(千葉)、それから当時葛西先生がいた日鋼記念病院(北海道)──後に福島へ移られましたが──その3箇所が、家庭医の教育に力を入れている施設だと認識していました。
初期研修先を探す中で、初期研修中から実際に家庭医療に触れることができて、医師だけではなく、地域医療に関わる様々な多職種と協働しながら学ぶことができる──そこを大事にした結果、藤沼先生のいる王子生協病院が一番あっているだろうと判断しました。
ちょうど僕の代から、後期研修制度が全科で一斉に始まったタイミングでした。それに合わせて、当時の家庭医療学会が主導する家庭医療専門研修プログラムの枠組みが作られ、僕は藤沼先生が立ち上げたプログラムである「CFMD家庭医療学レジデンシー・東京 」の一期生として専門研修を開始しました。3年間の研修を経て2009年に卒業。同期は僕の他に2人、合計3人の卒業生でした。

臨床・教育・研究 ── 三本柱を実践しながら

卒業後は、現在も勤務している北足立生協診療所の所長として仕事を開始しました。同時に、CFMDがリサーチフェローシップを立ち上げることになり、その一期生として参画しました。

リサーチフェローシップは、藤沼先生が東京慈恵会医科大学と直接契約を締結する形で作られたフェローシップで、僕は社会人大学院として、総合医科学センター・臨床疫学研究部に入って、プライマリ・ケア研究を学ぶというコースに進みました。専門研修3年を終えた後、所長として診療をしながら、リサーチフェロー兼社会人大学院生という形で並行して進めていった、という流れです。
配属されるレジデントの指導も並行して担っていたので、診療・教育・研究を実践し続ける形になりました。

── 当時、臨床・教育・研究の時間配分はどのような割合でしたか?

体感ですが、6対2対2ぐらい、あるいは5対3対2ぐらいだったと思います。研究にあてていたのは、全体の中で2割ぐらいでしたね。
研究日として金曜日が丸一日プロテクトタイムとして与えられていたので、その時間と、会議のない夕方の時間を使って研究を進めていました。ただ、ちょうどリサーチフェローになった頃に第一子が生まれたため時間の捻出が難しく、プライベートと仕事のバランスを取りながらという形になっていましたね。

アカデミアでも開業でもなく ── 今の場を選び続ける理由

── これまでに、アカデミック・キャリアに進むことや開業を検討された時期はありましたか?

ありましたよ。一つはアカデミック・キャリアに進むという方向性。もう一つは、開業して、自分が思い描いているような医療を実際に具現化するという道。そういったお誘いをいただいたフェーズもありました。

── それでも今の場を選び続けてこられたのは、どうしてでしょうか?

一番の要因としては、自分自身がきちんとプライマリ・ケアを提供する場にいること自体が、自分にとってすごくポジティブな経験に感じられるということなんですね。アカデミアに行くと、直接ケアをすることがどうしても少なくなる。例えば週に1回といった関わり方になるんですけど、その状況だと、「一家庭医として地域の中で働きたい」という自分の中の核の部分が、ちょっと満たされないなと感じたんです。

開業については、開業すると自分が思い描く医療をダイレクトに具現化できますが、運営やマネジメントにより多くのエフォートを割かなければならなくなります。今の僕としては、リサーチを進めたり、コラボレーションを整えたり、教育をしたり、臨床に従事したり──それぞれに自分のエネルギーの大半を投じたいという思いがあって。組織自体を立ち上げてマネジメントするという方向には、向かなかったということなんだと思います。その結果として、現状のキャリアを維持しているというところでしょうか。

CFMDの研修で得たもの ── 協同的な学びと、伴走者としての立ち位置

── CFMDのレジデンシーを通じて、今のご自身を作ったと感じる経験はありますか?

いわゆるリフレクション、「振り返り」のことと、もう一つはコラボレーティブな学び、「協同的な学び」というところです。コンペティティブな学び、つまり「競争的な学び」ではない「協同的な学び」、そこは、僕が医師になってからかなり強く形作られた要素ではないかなと思っています。

自分個人が良いパフォーマンスを示すというだけではなくて、チーム全体の中でお互いに学びを深めていく。チームとしての学びが深まって、お互いに成長していく。そうしたあり方が重要だ、ということを研修中にずっと言われ続けていました。

これは、家庭医療やプライマリ・ケアを提供するときに、地域の中で「突出して健康度の高い集団」を作り上げるのではなく、「全体の健康度を底上げしていく」というボトムアップの思考にも近いんですね。全体で水準を高めていく、その輪の中にいる、その輪を維持しながらより高い水準に持っていく──そういうことを意識する感覚は、研修中に特に醸成されたと思います。それまでの学生教育の中ではどちらかというと競争的な環境で育ってきていたので、CFMDの中でより磨かれたのかなと。

もう一つ、CFMDの研修プログラムの特徴として、自分のホームになる診療所を決めて、そこで継続的に診療を続けるという点があります。一つの診療所で3年間継続して関わり続けることで、患者さんの成長や変化に、お互いに伴走しながら経過を見ていく機会に恵まれました。それは今も、自分自身が家庭医として地域の方たちの長い時間経過の中で、伴走者としてそばにいる──そういう立ち位置を作ってくれたものじゃないかなと思っています。

ある1日、ある1週間

典型的な1日と1週間のスケジュールは、以下のとおりです。

■ 1日のスケジュール

時刻内容
8:00過ぎ出勤。レジデントの体調を雑談しながら確認
8:50朝礼
9:00〜12:00午前外来(レジデントのサポート中心)
スタッフ全員でカンファレンス
午後午後外来
外来後レジデントの外来振り返り

■ 1週間のスケジュール

曜日日中夕方〜夜
診療所(外来・指導)法人の各種会議 (理事長室会議/在宅部門会議/診療所統括会議)
診療所(外来・指導)法人の在宅医療当番
診療所(外来・指導)介護認定審査会(隔週)
診療所(外来・指導)レジデントデイ(月2)/職員会議(月1)/研究ミーティング/ CFMD運営委員会・指導医教育(FD) (月1)
午前:CFMD卒業生のクリニックで外来サポート【研究日】午後:研究室で研究時間
隔週で外来担当

所長兼指導医という立場ですが、自分が定期でずっとフォローし続ける患者さんはかなり絞っています。そういう方々は基本的には若いレジデントたちに診てもらって、僕はサポートに回る。患者さんにとっても「渡邉診療所」ではなく、地域の中の「北足立生協診療所」にかかって安心して診てもらえている──そういう状態を維持できるように関わっています。

診療所で研究を続けるための条件

── 診療所で研究を続けられたのは、どんな環境や条件が揃っていたからだとお考えですか?

一番大きかったのは、研究日として金曜日にプロテクトタイムが与えられたこと。時間の確保が一番のバリアになりやすいので、そこは決定的でした。

もう一つは、CFMDの中でも、所属する法人の中でも、研究することをネガティブに捉える文化ではないということ。「地域のため、日本のプライマリ・ケアに貢献するためにやっていて、自分たちのチームとしても参画できている」と仲間が思ってくださっていた──そこは大きかったですね。「趣味で業績を作っている」と見られたら続けるのは難しかったと思います。

加えて、プライマリ・ケア研究を正面から受け止めてサポートしてくれる慈恵の研究室があったこと。当時はそういう研究室は本当に少なかったので、これは本当に大きかったです。

── 逆に「これが足りなくて困った」と感じることはありましたか?

研究資金は、あまりなかったですね、でもそれは日本中どこでも同じなので、特別な話ではありません。在宅医療の多施設前向き研究のときは慈恵医大の協力で科研費を取得して進められましたが、潤沢ではないので、どうしても自分たちの手作業に頼る部分は残ります。それでも、組織的に打ち込める環境だったということが大きかったかなと思います。

ジェネラリストを目指す皆さんへ

── 最後に、ジェネラリストを目指す医学生や研修医の方へ、メッセージをお願いします。

僕が昔、家庭医の研修中に教えていただいたサー・デニス・ペレイラ・グレイ教授の言葉で、印象に残っているものがあります。「家庭医療は、いい加減にやるならこれほど簡単な仕事はないが、きちんとやろうとすればこれほど難しい仕事はない」というものです。

家庭医療は本当に奥深く、やりがいのある仕事だと思っています。総合診療・家庭医療を目指したのであれば、非常に学びが深く、自分自身の成長機会があると思います。是非、地域を支えながら、そして地域を支えつつ世界を俯瞰する視点を持って活躍する家庭医になってほしい。

「Act locally, think globally」。それを実践していって欲しいと思っています。

CFMDメモ

CFMD(家庭医療学開発センター)は、地域の診療所を基盤に家庭医を育成する研修プログラムである。レジデントは一つのホーム診療所に継続的に所属し、外来・在宅・多職種連携を通して地域に根ざした実践を学ぶ。教育の柱にはリフレクションと協同的学習があり、臨床能力だけでなく、教育・研究・組織づくりに関わる力も育まれる。リサーチフェローシップやPBRNなどを通じて、診療所を拠点とした研究活動にも取り組むことができる点は、CFMDの大きな特色の一つである。