家庭医療後期専門研修とPCAT

PCATと家庭医療後期研修プログラム 〜「5つの星」を持つ医師を目指して〜

3・11東日本大震災後一年が経過し、被災地支援も慢性期あるいは地域復興開発期を迎え、プライマリケア連合学会の被災地支援プロジェクト、Primary Care for All (PCAT)の活動内容も、また存在意味も変化してきていると思う。被災地においては、あらたなヘルスケアシステムのあり方が模索されているが、PCAT もそうした活動の一翼をになっているとも言えるだろう。おそらく、被災地のヘルスケアシステムの構築は、人と人とのつながりを「創り直し」、「守り立てる」ような、真のコミュニティ(=目的や価値を中心とした有機的な人の集まり)の形成と不可分であるといえよう。では、そうしたコンテキストにおいて私たちの家庭医療後期研修プログラム(レジデンシー)がなぜPCATを価値ある学びの場としてとらえているのかについて説明したい。 家庭医療とは特定の個人・家族・地域に多面的に継続的にかかわり、ケアするタイプの医療であり、家庭医はそうしたかかわりのできる臨床能力(コンピテン シー)を備えた医師のことである。WHOは1994年にプライマリ・ヘルスケアを担う医師として5つ星医(Five-star doctor)というコンセプトを提示した。この5つ星医の備えるべきコンピテンシーは、

  1. Care provider(標準的で幅ひろい医学的なケアができる)
  2. Decision maker(様々な場面で適切な意思決定ができる)
  3. Communicator(対患者だけでなく、チームや地域住民とのコミュニケーションが取れる)
  4. Community leader(地域の健康問題について政策提案ができ、人の集まりを組織し運営することができる)
  5. Manager(施設やチームの経営や運営ができ、費用対効果を勘案したマネージメントができる)

の5つである。 そして、WHOは、この5つ星医としてもっとも適しているのはスタンダードな教育プログラム(レジデンシー)を修了した家庭医であると言っている。この5つ星医のコンセプトは、現在に被災地に求められている医師像そのものだろうと私たちは考えている。 また、私たちが運営する家庭医療後期専門研修プログラムにおいて修了時に獲得すべきコンピテンシーは、

  1. よろず相談医として非選択的外来診療ができる
  2. 緩和ケアや急性期対応ができる在宅医療ができる
  3. 予防医療やヘルスプロモーションができる
  4. 適切なリーダーシップによってコミュニティマネージメントができる

といったところであり、こうした家庭医が今回の東北の被災地支援において、現地で役にたつであろうことを期待している。 PCATの支援活動に家庭医療レジデントが参加し、すでに現地で活躍中のトップランナーともに医療実践を行うことは、家庭医として育つ上で、この上ない貴重な経験を提供するだろう。その目指すところは5つ星医としての家庭医である。

※参考文献 Boelen C. Frontline doctors of tomorrow. World Health, 1994, 47:4-5.