在宅医療フェローシップ

在宅医療フェローシップ・東京は、2009年よりスタートした日本在宅医学会認定、在宅医療研修プログラムの認可をうけ、家庭医療学開発センター(Centre for Family Medicine Development:CFMD)のフェローシップとして2009年4月からスタートしました。教育プログラムは年々進化をつづけています。家庭医療をベースにした在宅医療研修プログラムとしては、教育内容、教育環境、教育実績において、全国随一の在宅医療研修プログラムといえるでしょう。

以下、本プログラムの概要についてご説明します。

ガイダンス

プログラム開始にあたって、10日間のガイダンスを行います。

  • コンピテンシーについての議論と目標設定
    在宅医のコンピテンシーを明らかにするために、様々な機関、職種にインタビュー(地域包括、ステーション、ケアマネ、施設、連携室) を行い、「どのような在宅医を目指すのか」についてKJ法などを用いて議論し、研修の目標を設定する。ポートフォリオの領域を確認しながら、一年間で作成するポートフォリオ項目の設定を行う。
  • チェーンレクチャー
    初期に集中的に知識をいれることで、研修の効率は上がると言われています。在宅医療の重要な領域についての知識学習を集中的に行います。認知症について(外来のシステム、診断、認知症高齢者の心理、BPSDの管理など)、医療保険制度・ケースマネージメントと介護保険、医療連携と地域連携、在宅でのアセスメントの方法、在宅で行う医療処置の基本について等、集中的な学習を行います。
  • ポートフォリオ発表会の見学
    ポートフォリオをイメージするために、家庭医療後期研修のポートフォリオ発表会を見学した。
  • 自己評価
    在宅医療で研修する内容について自己評価を行い、課題を明確化する。(3カ月に1回、自己評価とスタッフによる360度評価を予定している。)

診療所における在宅医療研修

  • 訪問診療の実施研修
    訪問診療は週4単位以上を行います。そのうち1単位は、研修施設間でのフェロー交換を実施し、日常的に主な研修施設以外で訪問診療を週1回経験します。
  • 認知症研修
    このプログラムは、認知症ケアを学ぶことを重要な柱と位置付けています。梶原診療所の認知症の専門外来である高齢者ケア外来で認知症診療について学び、認知症診療のノウハウを身につけた後、プログラムの後半は主治医として認知症診療を実践します。
  • 急性期対応
    月に何回かファーストコールを受け、在宅での急性期、亜急性期の対応を学びます。研修中は、経験のある医師の副待機を配置し、サポートします。
  • 症例の振り返り
    訪問診療例と認知症例については、所定のフォーマットを用いて、訪問診療と認知症例については全例ログを作成、各診療所指導医と、週1回程度の症例のふりかえりを行います。

外部研修

自分の課題領域や関心分野について、一定の期間外部で研修することによって、学びや見識を深めます。

  • ショートリリース
    本プログラムでは、春夏秋冬に各一週間を基本にショートリリースを行います。ただし、所属診療所との条件があえば、2週間や1カ月など中期の研修も可能です。
  • ワンデイリリース
    週に1日、定期的に外部研修を行います。緩和ケア研修、超音波研修、整形外科研修、リハビリ研修などが予定されています。
  • 他施設交流研修(一日在宅医療見学研修)
    在宅医学会のプログラムでは、一年間に3施設以上の他施設交流研修(見学研修)が義務付けられています。異なる地域の、異なる特異分野をもつ在宅医療を実践するクリニックで一日の見学研修を行います。

学習機会

  • 定期学習会
    在宅医療研修では、必要な知識量が膨大であり、計画的に知識学習を行っていく必要があります。年間の学習テーマを設定して、フェローが交互にレポートをする形で学習会をすすめています。
  • 公開学習会
    第四土曜日に、プログラム責任者が企画する3時間の学習会を開催しています。この学習会は、地域の訪問看護ステーションや所属診療所の看護スタッフとのフェイス・ツゥ・フェイスの関係をつくりも兼ねて、共に学ぶ場を提供するために公開としています。
    今までとりあげたテーマとしては、在宅での疼痛管理、在宅での嚥下障害へのアプローチ、在宅での包括的呼吸リハビリのすすめ方、認知症のBPSDへの対応、老年医学教育についてのシンポジウム、非がん疾患の緩和ケア、ALSの在宅ケア(外部講師)在宅での褥瘡、慢性創傷へのアプローチ、在宅緩和ケアに必要な臨床腫瘍学、在宅での整形疾患の診方(外部講師)、在宅での栄養評価と栄養処方などがあります。
  • 学会活動
    日本在宅医学会大会(2月)、生涯教育セミナーに出席します。また、関連学会として、緩和医学会、老年医学会、プライマリ連合学会など計画的に出席します。

研修支援、ポートフォリオ作成支援

  • ポートフォリオ領域の選定
    在宅医学会が指定する10領域の中から、疼痛緩和と認知症を必須項目とした15項目のポートフォリオ作成が義務づけられています。前述のように本プログラムでは、オリエンテーションのコンピテンシー議論と目標設定の議論の中で、作成すべきポートフォリオ項目の大部分を決めます。
  • フェローデイ
    月に1回のフェローデイ(第一木曜日)で、1カ月の振り返り、ケース検討を行います。フェローデイでは、ポートフォリオ領域・項目を常に意識し、毎月の議論の積み重ねで、ポートフォリオは修正され、荒いポートフォリオから、ショーケースポートフォリオに完成させていきます。
    フェローデイでは、ポートフォリオの社会的領域の作成に必要なプリンシプルを学ぶ機会を提供していきます。
  • ポートフォリオ中間合宿
    10月にポートフォリオの全領域を見直し、作成の方向性を確認し、指導医からアドバイスを受けるポートフォリオ合宿を一日かけて行います。
  • ポートフォリオ発表会
    3月末の土曜日に研修の締めくくりとして、ポートフォリオ発表会と修了式を行います。フェローやレジデント関係者、両診療所関係者、在宅医療、家庭医療、教育関係者などに公開して行います。
  • 指導医大会(プログラム交流集会)への出席
    在宅医学会が主催する秋の指導医大会(プログラム交流集会)に出席し、ポートフォリオ作成について学ぶとともに、他の研修者との交流を深めます。

評価

研修開始時と、3か月毎の年5回、自己評価を行い、知識や実践の到達度をチェックします。また、年4回、所属診療所スタッフ、指導医等より多面的評価(360度評価)をうけ、知識、実践力のみならず、在宅医としての姿勢、他職種の連携などについても評価をうけます。これらをもとに、プログラム責任者がフィードバックを行い、学びについてのアドバイスを行います。

研究  ~在宅医療をテーマとしたリサーチの方法を学ぶ~

1年のフェローシッププログラムでは、リサーチまで行うことは困難ですが、フェロー終了後リサーチを行う基盤つくりとして、リサーチ・メソッドの基本を学ぶセミナーに定期的に参加します。

先輩たちの声

在宅フェロー 大石 愛(生協浮間診療所)

横浜市立大学卒(2004年)、千葉県鴨川市の亀田総合病院で初期研修、亀田ファミリークリニック館山で家庭医後期研修修了後、1年間緩和ケア病棟で研修してから、在宅フェローシップを始めました。

日々の診療、フェロー学習会、フェローデイ、ときにレジデントデイにも参加させてもらい、色々な場面で学ぶことの多い日々です。

今年度は、老年医学、栄養、非がんの緩和ケアなどを中心に勉強していきたいと思っています。
在宅フェローではありますが、家庭医らしい外来診療も同時進行で学べるのがこのプログラムの良いところだと思います。

在宅フェロー 恒川 幸子(梶原診療所)

初めまして。この4月から梶原診療所で在宅医療の研修をさせて頂くことになりました恒川幸子(つねかわさちこ)と申します。

東京の三軒茶屋という街で生まれ育ちました。私の幼い頃は梶原のように路面電車がトコトコと走るのんびりとした街でした。

高校生のとき、人のために一生続けられる仕事をしたいと医者を志し、平成10年に日本大学医学部に入学。卒業後初期臨床研修2年間を経て高齢者医療に関わりたいと思うようになりました。

京都大学医学部附属病院老年内科で1年間高齢者医療を学び、そこで高齢患者さんの置かれている現状を目の当たりにして、地域医療の脆弱さを実感し在宅医療の必要性を強く感じるようになりました。

卒後4年目に福井大学医学部附属病院でERを学ぶ間に地域医療の基盤となる家庭医療を学び始め、今年度は地域医療としての在宅医療を学ぶために在宅フェローシップを希望しました。

この1年間、梶原診療所で在宅医療の基礎を学ばせて頂きながら、緩和医療やリハビリテーションなど必要な分野の習得に努めて、地域の皆さんの御役に立てるように精一杯頑張りたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。